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学生時代・山岳部(2009.7.28)

column 学生時代・山岳部(2009.7.28)

大学2年の時バスケット部を辞めてプラプラしていると、当時の同級生で、現在ブタインフルエンザで大忙しの東北大教授押谷くんに、山岳同好会を山岳部に昇格するので入部しないかといわれた。今までの人生で山岳部という発想は全く無かったが、子供のころから木登りは好きだったので即入部した。ワンデルング部では飽き足らない精鋭?の数名が所属する艮崚山の会。顧問は第2外科の葛西森夫教授、抗酸菌研究所の佐藤春夫教授という雲の上の存在だった。わけもわからず登山靴とヘルメット、そしてハーネス※1を買わされ、鎌倉山という作並にあるニッカウィスキー工場向かいのゴリラの頭のような山へ連れていかれ岩登りが始まった。
登るところは垂直に近い壁だが、お互いザイル※2に繋がって相手を確保しながら登る岩登りは、一方が滑落しても軽い怪我程度で済み非常に安全といえる。ザイルを使わずに北アルプスの岩稜を歩くほうがつまずいて転落し滑落してしまうこともありむしろ危険かもしれない。岩登りは両手足の4つのうち1つずつ動かす3点支持が基本となる。
全神経を10本の指先と靴底に集中する。指先の摩擦や引っ掛かり具合を確認しながら、滑らずに上がれるか安心できるまでいいホールドスタンス※3を探す。全身に緊張が走る。動きは少ないが呼吸が徐々に高ぶってくる。岩壁の弱点を見出して確実にルートを伸ばしていく。“ザイルいっぱ~い”掛け声がかかる。ザイルの長さは40mだ。岩の割れ目にハーケン※4を打ち込んで自己確保※5をとる。ここで緊張がやや緩和し、初めて周囲の景色が見えてくる。“登っていいぞ~”自己確保用のロープに体重をかけながらセカンドのザイルを引き上げる。眼下に48号線を走る車がミニチュアのように見えた。作並の駅から仙山線の列車がゆっくりと動き出した。風が吹き抜けたかと思うと鎌倉山麓の新緑がまぶしかった。
早池峰で岩壁を登攀していた時のこと。岩の上にひょいと顔を出した時に名前もわからぬ一輪の高山植物が紫色の小さい花を咲かせて揺れていた。人も来ないこんなところで誰に見てもらうため花を咲かせているのだろう。まるで自分一人に微笑んでくれているかのような可憐な花に、それまでの緊張の連続だった登攀疲れも一瞬に吹き飛んでしまった。
その後、艮崚山の会では3月の飯豊縦走を目標に、岩登り、沢登り、雪山を中心に年間100日を越える山行が始まった。そしていつの間にか山の虜になっていた。

※1ハーネス:岩登りなどで使用する安全ベルト。相方とザイルでつながっている。
※2ザイル:40~50mのメインの太いロープのこと。
※3ホールドスタンス:手と足を置く岩角や岩の隙間のこと
※4ハーケン:岩の割れ目に打ち込んで、登るときの支点とするもの
※5自己確保:短いロープで支点と自分をつなぐこと

記事の投稿日:2009年07月28日


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